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大阪地方裁判所 平成4年(ワ)6842号 判決 1994年10月26日

原告(反訴被告)

株式会社サンキュウ・トランスポート・阪神

被告(反訴原告)

南堺運輸株式会社

被告

吉岡政治

反訴参加人

安田火災海上保険株式会社

主文

一  被告らは、原告に対し、各自金六七四万三五三五円及びこれに対する平成三年九月一二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  反訴被告は、反訴原告に対し、金一五九万五八八五円及び内金一四四万五八八五円に対する平成三年九月一二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  反訴被告は、反訴参加人に対し、金一四二万七八五七円を支払え。

四  原告、反訴原告、反訴参加人のその余の請求をいずれも棄却する。

五  本訴、反訴について生じた訴訟費用は、これを五分し、その一を原告(反訴被告)の負担とし、その四を反訴原告(被告)、被告吉岡政治の負担とする。参加について生じた費用は、これを五分し、その二を反訴被告の負担とし、その余を反訴参加人の負担とする。

六  この判決は、原告(反訴被告)、被告(反訴原告)、反訴参加人勝訴部分に限り、いずれも仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  本訴

被告らは、原告に対し、各自金七〇〇万円及びこれに対する平成三年九月一二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  反訴

反訴被告は、反訴原告に対し、金四〇一万四七一四円及び内金三六一万四七一四円に対する平成三年九月一二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  反訴参加事件

反訴被告は、反訴参加人に対し、金三五六万九六四三円を支払え。

第二事案の概要

本件は、高速道路での大型貨物自動車同士の衝突事故(以下「本件事故」という。)において、損害を被つた一方車両(以下「原告車」という。)の所有者である原告(反訴被告、以下「原告」という。)から、他方車両(以下「被告車」という。)の運転者である被告吉岡政治(以下「被告吉岡」という。)、その使用者である被告(反訴原告)南堺運輸株式会社(以下「被告会社」という。)に対し、その損害賠償(一部請求)を求めた事件(本訴)、これに対して、被告車も損害を被つたとして被告会社から原告に対して、損害賠償を求めた事件(反訴)、反訴事件係属中、被告会社が原告に損害賠償請求していた損害のうち積荷の破損損害分について保険契約に基づいて被告会社に保険金を支払つた反訴参加人(以下「参加人」という。)から、原告に対し、保険代位により損害賠償請求した事件(反訴参加事件)である。

一  争いのない事実など(証拠及び弁論の全趣旨により明らかに認められる事実を含む。)

1  事故の発生

(1) 発生日時 平成三年九月一二日午前四時二分ころ

(2) 発生場所 静岡県庵原郡由比町西倉沢東名高速道路上り線、東京起点一三九・四キロポスト付近路上(以下「本件事故現場」という。)

(3) 関係車両

<1> 訴外西尾清治(以下「西尾」という。)運転、原告所有の原告車(大型貨物自動車、姫路一一あ二二〇二)

<2> 被告吉岡運転、被告会社所有の被告車(大型貨物自動車、泉一一き一七九七)

(4) 事故態様 本件事故現場で被告車が原告車に追突したもの

2  参加人と被告との保険契約、保険金の支払(丙一ないし三)

(1) 参加人は被告との間で、平成三年八月二七日に、以下の内容の運送業者貨物賠償契約を締結した。

<1> 保険者 参加人

<2> 保険契約者 被告

<3> 被保険者 原告・愛知南堺運輸株式会社・関東南堺運輸株式会社及びその下請業者

<4> 保険の目的 被保険者が運送契約に基づき輸送する貨物に係わる法律上及び運送契約上の賠償責任

<5> 保険期間 平成三年九月一日午前零時から平成四年八月三一日午後一二時まで

<6> 保険金額 貨物自動車一台につき五〇〇万円

全仮置場所につき一〇〇〇万円

年間総填補限度一〇〇〇万円

一事故あたり免責金額一〇万円

(2) 参加人は、被告に対し、平成四年一月一一日に右保険契約に基づき、本件事故に関する積荷の破損損害の保険金として三五六万九六四三円を支払つた。

二  争点

1  本件事故の過失責任、過失割合

(1) 原告

被告吉岡は、被告車を運転して、高速道路本線第一通行帯を走行中、由比パーキングエリアから既に本線第一通行帯に進入走行している被害車両に追突したもので、被告吉岡には高速運行における前方の安全確認並びに車間距離を保持する各義務に違反した過失があるので、同人は民法七〇九条に基づき、被告会社は、被告吉岡の使用者であり、その業務中の事故であるから同法七一五条に基づき、いずれも、原告に生じた損害を連帯して賠償すべき責任がある。

(2) 被告ら、参加人

西尾は、原告車を運転して、由比パーキングエリアから本線に進入するに際しては、高速道路本線車道を進行中の被告車の進路を妨害してはならず、また、加速車線が設けられていたのであるから、その加速車線を通行しなければならない各義務があるにもかかわらず、これに違反して漫然進入した過失があり、原告は、西尾の使用者であり、その業務中の事故であるから同法七一五条に基づき、いずれも、被告会社に生じた損害を連帯して賠償すべき責任がある。

仮に、被告吉岡に前方注視義務違反の過失があつたとしても、前記西尾の過失の程度に比べると、過失割合は極めて軽微である。

2  原告及び被告会社の各損害額

第三争点に対する判断

一  過失責任、過失相殺

1  前記争いのない事実に証拠(甲二の1ないし14、三の1、2、四の1、2、証人西尾清次、被告吉岡本人)及び弁論の全趣旨を総合すると、以下の事実が認められる。

(1) 本件事故現場は、東名高速道路上り線(以下「本件道路」という。)一三九・四キロポスト付近であり、由比パーキングエリアからの本線進入路との合流点であり、加速車線が設けられている。路面はアスフアルト舗装され、平坦で、乾燥していた。本件事故当時付近は街灯の照明で明るかつた。

(2) 西尾は、原告車を運転して由比パーキングエリアから発進し、時速約四〇キロメートルの速度で前記一三九・四キロポスト手前五一メートル付近から、本線車道の後方約四七メートルを進行中の車両が追越車線に車線変更するのを確認して本線車道に進入し、時速約六〇キロメートルに加速して右ポスト付近に至つた時、後方約三〇メートルに被告車が迫つてきているのをサイド・ミラーで確認したが、約二〇メートル進行して被告車に追突され、押し出され、同ポスト東方六四メートルの路肩ガードレール、一三九・三キロポスト付近の中央分離帯ガードレールに衝突し、さらに一九メートル進行して停止した。

(3) 被告吉岡は、被告車を運転し、本件道路を少なくとも時速一〇〇キロメートルで東進して、一三九・四キロポスト付近に至り、初めて、前方約四・五メートルを進行中の原告車に気づき、ハンドルを右に切るとともに、急ブレーキをかけたが及ばず、六メートル進行して原告車に追突した。

(4) 本件事故後の両車の損傷は、原告車が前部大破、キヤビン脱落であり、被告車が後部凹損、前部凹損、後輪車軸脱落で、ともに走行不能状態であつた。

以上の事実が認められる。

2  右事実によると、本件事故は、被告吉岡が原告車に初めて気づいたのが同車の四・五メートル手前であつたこと、被告車の速度が少なくとも時速一〇〇キロメートル程度であつたことから、被告吉岡の前方注視義務違反、速度違反(大型貨物自動車の法定速度は八〇キロメートル)により発生したことは明らかであるから、被告吉岡は民法七〇九条により、被告会社は同法七一五条によりいずれも原告の損害につき賠償責任を負うことになる。

3  ところで、西尾は、前記のとおり、後方を一応確認して本線車道に進入したものであるが、約四七メートル後方の車両は確認したものの、その後方は確認していないことを自認するところであり、前記認定の西尾が被告車に気づき、同車に追突されるまでの距離(原告車が二一メートル進行する間に被告車は五〇メートル進行した。)、その際の原告車の速度を考慮すると、被告車の速度が時速約一二〇キロメートル程度出ていた可能性も否定できないが、高速走行中の事故で指示説明における誤差もまた否定できないところであり、被告車のタコメーター(乙六)の記録による時速約一〇〇キロを基礎として、進入時の被告車と原告車の車間距離を検討すると、原告車が本線に進入して被告車に気づくまでの平均速度は時速五〇キロメートル程度であるから、原告車を約三〇メートル後方に発見するまでの時間が約三・六七秒であるから、原告車が本線進入時、被告車は八〇メートル程度後方を進行していたことになる。

右によると、西尾は、被告車に気づかず、右の加速車線で十分速度を上げないまま、原告車を本線車道に進出させたこと、本車線進入時の原告車、被告車の右車間距離に照らすと、被告にも後方確認義務が不十分で、加速車線がまだ前方に残り、十分加速すべきであつたのにこれを怠つた過失が認められる。そうすると、原告も民法七一五条により被告の損害につき賠償責任を負うことになる。

4  本件事故が高速道路の合流地点における事故であること、被告吉岡の著しい前方不注視、速度違反の過失と、西尾の後方確認、加速が不十分なまま本線車道に進入した過失を総合考慮すると、両者の過失割合は、被告吉岡六、西尾四とするのが相当である。

二  損害(以下、各費目の括弧内は当事者主張額)

1  原告分

(1) 製品破損損害(九五万七七七五円) 九五万七七七五円

証拠(甲五の1、2、証人東淳吾(以下「証人東」という。))によれば、本件事故当時、原告車は株式会社岡村製作所の製品を積載していたこと、本件事故により、これが破損し、九五万七七七五円(消費税を含む。)の損害が発生し、これを同社に支払つたことが認められる。

(2) 事故車両引き揚げ作業費(四三万四〇九四円) 四三万四〇九四円

証拠(甲二、六、七、証人東)によれば、原告車は、本件事故により大破し、走行不能となつたため、本件事故現場から整備工場まで牽引して移動せざるを得なかつたこと、そのための費用として四三万四〇九四円を要したことが認められる。

(3) 全損による車両損害(八五八万九六三七円) 八五八万九六三七円

証拠(甲八、九、証人東)によれば、本件事故により原告車は大破し、その修理費が時価を上回るものであつたので、これを廃棄処分したこと、時価が八五八万九六三七円であつたことが認められる。

(4) 休車損害(一四九万〇六六七円) 一二五万七七二〇円

証拠(甲一〇ないし一四、証人東)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、運送業を営み、その所有車両を全て稼働させていたこと、本件事故により、原告車が稼働不能となり、外部の車両をチヤーターせざるを得なかつたこと、原告車に代わる車両が納入されたのが平成三年一一月二九日であつたこと、原告車は、購入後二か月程度で、一か月通じて稼働したのは平成三年八月の一か月に止まつたが、同月の売上が一七八万七四〇〇円であり、固定経費が二六万七八一三円、変動経費が五七万〇〇八四円、人件費が五六万七四八〇円であつたことが認められ、一か月の休車損害は、売上から原告算定方法のとおり変動経費、人件費を控除すると、六四万九八三六円(一日当たり二万〇九六二円)となる。ところで、前記のとおり、原告車に代わる車両が納入されたのは平成三年一一月二九日であるが、弁論の全趣旨によれば、本件事故による代替車両購入に必要な期間は六〇日が相当であるから、休車損害は一二五万七七二〇円となる。

(5) 小計

以上によると、原告の損害額は一一二三万九二二六円となるところ、前記過失相殺により四割の控除を行うと、六七四万三五三五円となる。

2  被告会社分

(1) 車両引き揚げ作業費(五七万八六五四円) 五七万八六五四円

証拠(乙一、証人幸口光次(以下「証人幸口」という。))、弁論の全趣旨によれば、被告車は、本件事故により大破し、走行不能となつたため、本件事故現場から整備工場まで牽引して移動せざるを得なかつたこと、そのための費用として五七万八六五四円を要したことが認められる。

(2) 全損による車両損害(一五〇万円) 一五〇万円

証拠(乙二、証人幸口)、弁論の全趣旨によれば、本件事故により被告車は大破し、その修理費が時価を上回るものであつたこと、時価が一五〇万円であつたことが認められる。

(3) 休車損害(一五三万六〇六〇円) 一五三万六〇六〇円

証拠(乙五の1ないし3、七、八の1ないし4、九の1、2、一〇、証人幸口)及び弁論の全趣旨によれば、被告会社は、運送業を営み、その所有車両を全て稼働させていたこと、本件事故により、被告車が稼働不能となつたこと、被告車に代わる車両が納入されたのが平成四年二月二五日であつたこと、被告車は、昭和六〇年から稼働していた車両であり、本件事故前一か月の売上が一五七万七六八七円であり、固定経費が八万六一七〇円、変動経費が三六万四二九五円、人件費が三三万三六〇〇円であつたことが認められ、一か月の休車損害は、売上から被告算定方法のとおり総経費を控除すると、七九万三六二二円(一日当たり二万五六〇一円)となる。ところで、前記のとおり、原告車に代わる車両が納入されたのは平成四年二月二五日であるが、証人幸口、弁論の全趣旨によれば、本件事故による代替車両購入に必要な期間は六〇日が相当であるから、休車損害は一五三万六〇六〇円となる。

(4) 小計

以上によると、被告の損害は三六一万四七一四円となるところ、前記過失相殺による六割の控除をすると一四四万五八八五円となる。

(5) 弁護士費用(四〇万円) 一五万円

本件事故と相当因果関係のある弁護士費用相当の損害額は一五万円と認めるのが相当である。

3  参加人の損害額

証拠(乙三の1、四の1、2、証人幸口)によれば、本件事故当時、被告車には昭和アルミニウム株式会社(以下「昭和アルミ」という。)のアルミニウム製品・印刷物を積載していたこと、本件事故によりこれらが不良品となり、被告会社が昭和アルミに積荷損として三六六万九六四三円の損害賠償義務を負い、これを支払つたことが認められ、前記のとおり、参加人が保険契約に基づき、平成四年一月一一日に被告会社に積荷の破損損害の保険金として三五六万九六四三円を支払つたことが認められるから、前記過失相殺による六割の控除をすると、参加人が保険代位により原告に請求できる損害額は一四二万七八五七円となる。

三  まとめ

1  本訴

前記のとおり原告の被告らに対する請求は、各自六七四万三五三五円及びこれに対する不法行為の日である平成三年九月一二日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。

2  反訴

被告会社の原告に対する請求は、金一五九万五八八五円及び内金一四四万五八八五円に対する不法行為の日である平成三年九月一二日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。

3  参加事件

参加人の原告に対する請求は一四二万七八五七円の支払を求める限度で理由がある。

(裁判官 高野裕)

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